育児休業を取得して、良かったことのひとつ

はやいもので、渡英してからもう1年と2ヶ月が経つ。今回は育児休業を取得して良かったことのひとつ、「料理」について書いてみたい。

パプリカの肉詰め

児休業を取得してよかったことは何かと聞かれたら、その1つとして「料理が楽しい」と感じるようになったと答えるだろう。

実は渡英するまでは、ほとんど料理というものをしたことがなかった。あるとしたらたまにカレーのルーを買ってきて、箱の裏に書いていあるレシピ通りに野菜を切って煮込むだけか、冬場に鍋の素を買って、これまた裏に書いてある材料を切って、鍋つゆと一緒に入れて煮るだけをして料理をした気にになっていたくらいだ。

家でごはんを食べるときはほぼ妻が料理をしてくれていた。妻は料理が好きらしく、楽しそうにやっていたので、日本にいたときは完全に委ねていた。(むしろ僕が料理をしたら、楽しい時間を奪って申し訳ないなくらいの拡大解釈をしていた。)

なので、ロンドンにきてから初めて料理をすることになったのだが、いざ台所に立ってみると何もわからない。野菜の切り方をはじめ、焼くときの火加減、さしすせその正しい順番やさじ加減。1カップや大さじ小さじってカップやスプーンの大きさによって違うと思っていた。

そんな状態だったので、初めての味噌汁は味噌を入れたあとに沸騰させてしまって、日本を発つときに母親が「ロンドンはなかなか手に入らないだろうから。」と持たせてくれた美味しい味噌だったのに見事に風味が飛んでいってしまった。

そのとき、たかが一杯の味噌汁だけど、その一杯の味噌汁ですらまともに作れない自分がすごく情けなく感じた。

次の日から、どうやったらおいしい料理が作れるかをネット上のレシピをみたり、妻に教えてもらったりして研究するようになった。試行錯誤すること1週間、ネット上に載っていたレシピを見よう見まねで作ったピーマンの肉詰めがたまたまうまくいって、妻が「おいしい!」と喜んでくれた。

いま思えば、牛ミンチと豚ミンチ(こっちでは合挽き肉をみかけない)を卵と小麦粉、塩・胡椒と一緒に混ぜて、パプリカに詰めてオーブンで焼いただけだったし、妻もこれまでの1週間と比べたら相対的においしいという意味だと思う。なんなら僕にやる気を起こさせようという魂胆だったのかもしれない。ともあれ、このときの妻の「おいしい!」という言葉と表情は、とても嬉しかった。このパプリカの肉詰めから、僕の料理熱が一気に高まっていった。

ようこそ、私のキッチンへ

それまでは料理を作るときは、ネットのレシピを参考にして作っていたのだが、料理をし始めて1週間、料理を学んでいくのにどういうやり方が良いかを知りたくなった。そこで、日本でよくお世話になっていた先輩がよく連れていってくれていた和食屋の大将に連絡してきいてみた。

大将いわく「まずは気に入った本を1冊購入して、ひと通り作ってみるといい。そのヒトの味付けの仕方が、レシピに書いている文字ではなく舌で分かってくるから。そこから自分や家族に合った味付けに調整していけばいい。」というアドバイスをもらった。たしかにネットのレシピは便利なのだけど、同じレシピでも投稿しているヒトやそのレシピを提供しているヒトによって異なっていて、なにがどういうロジックでその味付けにしているのかはあまりよくわからない。

まずは大将のアドバイスに従ってみようと、1冊の本でひととおり作ってみることにした。家の近くにある本屋にいってみたが、当たり前と言えば当たり前だがロンドンで和食までカバーしている料理本はあまりなかったため、妻がたまたま日本から持ってきていた、「ようこそ、私のキッチンへ」という有元葉子さんの本がよさそうだったのでこちらを使ってみることにした。

「ようこそ、私のキッチンへ」は料理研究家・有元葉子さんによって2011年に出版されたレシピ本。全部で253レシピが掲載されていて、まるで分厚い教科書のよう。デザートと一部の魚料理を除いて(本当は作りたかったが、ロンドンでは手に入らない魚もあり断念)、ひととおり作ってみることにした。掲載されているレシピの順番は特に気にせず、作りたいなと思ったレシピからどんどん作っていった。

*メンチカツ

*茶碗蒸しのひき肉あん

253レシピあったが、デザートと一部の魚料理を除くと合計約200レシピくらい。副菜もあるので、半年くらいかけてひととおり作ることができた。やり始めて3ヶ月くらいすると、大将が言っていたとおり、少しずつ味付けの程度が分かってきた。後半は、どんな調味料をどの程度使うかがレシピを見る前から分かるようになっていた。

レシピを見ないで作れるようになりましょう

「ようこそ、私のキッチンへ」に掲載されているレシピをひととおり作り終えた20182月頃、有元葉子さんは他にどんなの料理本を出しているのかなぁとネットで検索してみると「レシピを見ないで作れるようになりましょう。」という新著が出ることを知る。これまで毎日のように有元さんのレシピをみていた僕としては衝撃のタイトル。日本からの郵送ではあったが、タイトルで惹きつけられ思わずポチッてしまっていた。

5日後、ついに対面。早速読んでみると目からウロコの内容ばかり。従来のレシピ本のように写真がたくさん載っているわけでもないし、こと細かに手順が書いてあるわけでもない。なんというか小説を読んでいる感覚。それでも、野菜の炒め方や肉や魚の焼き方などの、なぜそうするかや大事な部分は何かということが書かれていて、いちいち「なるほどなぁ。」とか「そういうことかぁ。」と感嘆するばかり。あっという間に読み切ってしまった。

この本は料理が好きなヒトはもちろん、これから始めてみようかなというヒトにとってもおすすめだ。一応言っておくと、有元葉子さんから宣伝するように言われたわけでもないし、何か見返りを求めたいわけでもない。僕の場合、たまたま出会ったのがこの2冊の本だった。これから料理を始めてみようという方には、本屋(Amazonや楽天でももちろんいいが。)に行ってみて、自分が気に入った本をまずは一冊購入してみることをおすすめしたい。

料理は楽しい

 

味噌汁の風味飛んだ事件の日から早いもので、約1年と2ヶ月が経ったが、料理は楽しい。何が楽しいか。

ひとつは、「自分の頭の中で想像したものが、すぐに実践して自分の五感で確かめられる。」ということだ。

料理が楽しく感じるようになってから、ネットや本でレシピを参考にすることがほとんどなくなった。

アイデアの源泉は、スーパーマーケットかレストラン。スーパーマーケットは、美味しそうな旬な野菜を見つけると「これは強火でオリーブオイルと塩だけで焼くだけでも美味しそうだな。」とか「ソースにしてサーモンソテーと一緒に食べたらどうだろう。」とかを想像して、その場でメニューを考えることが多くなった。そしてその日の夕食にすぐ実践。「塩加減はもう少し抑えても野菜の旨味は十分に引き出せそうだな。」とか「このソースは、サーモンより白身魚の方が合いそうだな。次回試してみよう。」という繰り返しながら、少しずつ上達していくのが楽しい。

時間に関してはものすごく凝った料理を作っているわけではないので、調理時間は大体30分くらい。種類は、和食のときは大体12菜(ごはんに汁物、主菜と副菜1品ずつ)だ。副菜なしで主菜に野菜をちょこっと付け加えただけのときもある。あんまりかしこまらずに、いい加減に作るのがよい。

また、スーパーマーケット以外のアイデアの源泉はレストランだ。これまで外食をするときは全く考えなかったが、最近は「どうやったら、家でこの料理を作れるだろう。」と考えるようになった。どんな材料や調味料を使っているのか、どういう調理方法や火加減をしているのか。単純に美味しいかそうでないかだけでなく、想像する楽しみが増えた。場合によってはお店のヒトに聞くようになった。

 

料理することのもうひとつの楽しみは、自分が作った料理を誰かが喜んで食べてくれるということだ。

僕の場合は大抵の場合、妻と娘なのだけど、美味しいと言って食べてくれるとやっぱり嬉しい。妻は気を使って美味しいといってくれるときもあるけれど、娘は表情ですぐに分かる。美味しくないときはあからさまに美味しくない顔をするし、美味しいときは「お代わり!」と言わんばかりに空っぽになったお皿を僕に差し出してくる。

 

育児休業を取得して、料理が楽しいと思えるようになった。このことは、僕の人生にとって、大きな大きな収穫だ。育児休業の取得と料理をし始めることの間に相関関係があるのかは分からないけれど、僕の場合は育児休業を取得することで料理はこんなに楽しいんだということを知るひとつのきっかけになった。

 

厚生労働省の育児休業法のあらましによると、育児休業とは「子を養育するためにする休業」と定義されている。もちろん、あくまでも子供を育てるということがメインの目的になっているけれども、その過程の中で、自分自身や家族の人生をより豊かにする料理というものも身につけることが出来るということは、意外と大きな副産物かもしれない。いつか娘と料理を一緒にするのが楽しみだ。